結露帰属ボックス 

Condensation Belonging Box

2012

Installation
Water / PVC Sheet / Painted wood
208 x 80 x 80 cm

赤い電話ボックスはイギリス人建築家ジョン・ソーン卿の墓をモチーフにデザインされ、現在もイギリスの路上に存在している。現代社会では個々が通信機器を携帯し、電話ボックスを利用する機会は皆無に等しい。様々な後継デザインが存在する一方で、赤い電話ボックスは観光客が出向く傾向があるエリアにより多く点在し、その場所で期待されるアイデンティティを提供する。

公的な場所に設けられた私的な空間は、広告・薬物密売・落書き・ホームレスのトイレなど、本来の用途とは異なるかたちで利用されている。その空間体積に本来求められていたのは、その時に身体が物理的に属さない異なる場所へ心をつなぐことと解釈し、ロンドンと故郷の北海道がつながる私個人にとっての瞬間を考察した。

雨がしたたる冷え込んだ暗い夜、バスの2階席に座り帰宅していた。乗客の身体が発する熱により温められた車内と外部の温度差、雨に濡れた衣服・靴が車内湿度をより高め、窓に結露を発生させていた。私は曇った窓から景色を眺め、故郷の寒い冬を回想していた。窓に付着している凝縮された空気一つ一つの雫に触れ、軌跡を残す。幼少期に北海道の住宅や車内で経験していたその眺め・行為は、心が落ち着く故郷へのつながりの瞬間だった。

この作品では、場所のアイデンティティと私個人の身体が内包するアイデンティティを混成させ、電話ボックスの体積に微細気候を作り出した。儚く消えゆくその現象に触れ、「私」の痕跡を残すその行為は、心が郷土へとつながる帰属の時であった。